厚底シューズ問題で問われる「公平性」の意味

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国際陸連が31日に発表した新規定により、「厚底シューズ問題」に一応の決着がつきました。ただ、それは新たな問題を生み出しました。今回の新規定により野放図な厚底化、プレート埋め込み競争には歯止めがかかったものの、「4月30日以降の競技会で使用可能な靴は4カ月以上市販されたものに限り、見た目の変更や医療上の理由を除き特注品の使用は認めない」という新たな制限が加わったのです。

これはエリート選手がメーカーと共同で製作している特注品や、アシックス社が競技者用に準備している「短距離用ピンなしタイプのスパイク」、あるいは新開発技術を搭載したプロトタイプ品といったものが、新規定によって使用不可となるのではないかと読める内容です。エリート競技者向けのシューズは特注品であるケースが多く、むしろナイキ社の厚底シューズのように「市販品をエリート選手が使う」ことのほうがレアケース。「効果が強すぎるのではないか」という厚底シューズの是非を検討した結果、ナイキ社以外の他メーカーに流れ弾が直撃したという格好となりました。

先日の大阪国際女子マラソンで優勝し、東京五輪出場に大きく近づいた松田瑞生選手の靴は、名工として知られる三村仁司氏の「ミムラボ」が手掛けたもの。外反母趾を抱える松田選手のために足型をとるところから始めて生み出されたシューズは、「市販されたもの」と言えるのかどうか。外反母趾のための調整自体は「医療上の理由」と言えるかもしれませんが、「市販(open retail market)」というのは定義があいまいです。ミムラボ製作のシューズは一般の人が買えない特注品と言えば特注品ですし、「オーダーメイド靴屋」だと考えれば市販品とも言えるのですから。

「オーダーメイド靴屋」がOKならば、各メーカーのプロトタイプも「工場直販店」などとすればOKになってしまいます。また、もともとは市販品であっても「医療上の理由」で調整を繰り返した結果、市販品Aの靴底と市販品Bのアッパーを合体させたオリジナルの品が誕生する場合もあるでしょう。また、限定100個の抽選販売品が何故かエリート選手に当選したケースや、ごく短期間だけ販売された限定商品や品切れ商品、世界のとある1店舗だけで販売された商品などは、どう扱われるのか。販売個数や販売時期、販売地域などに具体的な指標がないままの「市販品」という新規定は、無用な混乱を生むものだと言えるでしょう。

そもそも従来から競技規則には「競技に使用されるシューズはすべてのランナーが合理的に利用可能でなければならず、不公平なサポートや利点を提供するものであってはいけない」という規定が存在しており、「合理的に利用可能」の記載ですでに公平性は監視されていたはずです。とある「オーダーメイド靴屋」が少数しか製造できないケースや、注文から製造まで時間がかかるケースは、オーダーメイドである以上「非合理」とまでは言えないからこそ、従来の規定内でも認められてきたものが、今回の新規定によって急遽認められなくなるのだとすれば、それこそ「不公平」と言えるのではないでしょうか。製造数が少ないからダメである、というのは大企業優遇という逆不公平でもあるのですから。

保つべき公平性は「不公平なサポートや利点を提供するものであってはいけない」の部分であり、「市販されているかどうか」ではないはずです。

・文=フモフモ編集長

(引用元:livedoor news)