羽生結弦の五輪連覇を生んだ、高橋大輔が撤廃した「特例」

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13日、羽生結弦選手の全日本フィギュアスケート選手権欠場が発表されました。しかし、羽生選手は来年3月の世界選手権代表に選ばれると目されています。全日本選手権が選考会を兼ねるという状況からは、「欠場なのに代表入り?」と疑問を持たれるかたもいるかもしれません。

実際には、昨年の全日本選手権を欠場した羽生選手が平昌五輪代表に選ばれたように、全日本欠場=代表落ちということにはなりません。それはシーズン前に日本スケート連盟があらかじめ発表している「国際競技会派遣選手選考基準」に、こうしたケースに備える規定が含まれているからです。

今季の選考基準においては、「最終選考会である全日本選手権大会への参加は必須」としつつも、同時に「過去に世界選手権大会3位以内に入賞した実績のある選手が、けが等のやむを得ない理由で全日本選手権大会へ参加できなかった場合、不参加の理由となったけが等の事情の発生前における同選手の成績を選考基準に照らして評価し、世界選手権大会時の状態を見通しつつ、選考することがある」と記されています。

昨年、一昨年と羽生選手は全日本選手権を欠場していますが、この規定によって選考対象に加わり、他の候補選手との比較において実力・実績が評価され、代表入りをはたしました。その結果、2017年の世界選手権、2018年の平昌五輪ともに金メダルを獲得したのはご存じのとおりです。

選考会の成績以外にも選考基準を設けることは、さまざまなスポーツ団体においてなされています。実力者が十分な調整ができるように配慮して、「前年の世界選手権メダリストは翌年の五輪代表に内定」といった条項を設けるケースはまま見られるものです。

フィギュアスケートにおいても、全日本選手権を最終選考会と位置づけつつも、不慮の事態でそこからこぼれた実力者を、別途選考対象とすることは以前から行われてきた「通例」でした。細かい条件や表現は変化しているものの、「全日本選手権を欠場しても、選考対象に加えることがある」ことは選考基準における「通例」だったのです。

バンクーバー五輪のあった2009-2010シーズンの選考基準でも「世界選手権6位以内に入賞した実績のある選手が、シーズン前半にけが等で選考対象に含まれなかった場合には、オリンピック時の状態を見通しつつ、選考の対象に加えることがある」とあります。もっと以前においては、そもそも全日本選手権に出場することすら必須ではなく、トリノ五輪の選考では「前2シーズンの成績をポイント化して選考」という形式でしたし、ソルトレイク五輪の際はグランプリファイナルの成績を重視して全日本選手権前に内定者を出しています。

そうした選考基準となるのは当然のことで、フィギュアスケートは個々人の実力差というものが毎回再現される競技であり、試合のたびに大きく順位が入れ替わるようなことはありません。そのなかで、競技の発展が掛かる世界大会に、出せば強いとわかっている選手を送り込まないという判断は連盟としてはできないものです。世界選手権には翌シーズン以降の出場枠獲得もかかってきますので、少しでも強い代表を送り込みたいのは必然なのです。選考のための選考ではなく、強い選手を選ぶための選考なのですから。

そんななか、この「通例」がゆらいだことがありました。

それがソチ五輪のあった2013-2014シーズンの選考基準でした。このシーズンは前年まで存在した、怪我などで全日本選手権に出場できなかった場合でも実績ある選手は選考に加えるという規定がなくなり、逆に五輪代表は「最終選考会である全日本選手権に参加しているもの」でなければならないという選考基準が加えられたのです。どんな実力者であっても、全日本に出場しなければ五輪代表には選ばない、という厳しい縛りでした。

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