新採点方式のもとでも期待できる羽生結弦選手の「羽生超え」

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国際スケート連盟の総会にて決定されたフィギュアスケートの新ルール。

新ルールでは男子シングルフリーの演技時間が、従来より30秒短くなることやジャンプの回数を1回減らすこと、4回転ジャンプの繰り返しは一度だけに制限されること(※3回転ジャンプと合わせて2回の繰り返しが可能)、演技後半のジャンプに対して与えられる1.1倍ボーナスの回数が制限されたことなどが盛り込まれました。4回転ジャンプは全体的に基礎点も下げられており、ジャンプ偏重を食い止めようとするかのような改定となっています。

もちろんフィギュアスケートはジャンプだけでなく、スピンやステップを総合的に美しく演じてこその競技ですが、制限によって記録という面で従来よりも伸び悩むのではないかという懸念も当然ともないます。特に気になるのは世界記録を保持する羽生結弦選手が、自分の記録を超えられるのかという点。旧採点よりも素晴らしい演技が、新採点では低く記録されるようなことになれば、記録の意味合いをも揺るがしかねません。

その点で新たな伸びしろとして期待できるのは、出来栄えを評価するGOEの採点が従来の7段階から11段階へと広がり、最高の評価「+5」を得られれば大きな加点がもらえるということです。これにより全体的に基礎点が下げられた4回転ジャンプでも「+5」の評価であれば、従来の採点方式における最高評価「+3」の場合よりも得点が増す傾向となるのです。

「普通の演技にはこれまでより厳しいが、最高の演技は高く評価する」

そのような新採点方式のなかで、羽生選手は自身を超えることは可能なのか。羽生選手が自身の最高得点をマークした、2017年のオータムクラシックにおけるショートプログラム、2017年世界選手権でのフリープログラム、その演技を新採点方式で演じた場合、最高で何点まで記録できるのか。すべての出来栄えが最高評価で、演技構成点でも全ジャッジが満点評価をした場合の、「どうやってもこれ以上は取れない、得点の上限値」について見ていきます。

羽生選手の2017年オータムクラシックでのショートプログラムは、4回転サルコウ、4回転トゥループのコンビネーションを含む構成でした。この演技の旧採点方式における得点の上限は115.11点で、実際に記録した羽生選手の得点は112.72点というものでした。上限値の98%に迫る非常に優れた実施でした。

新採点方式で同じ演技をした場合、演技後半のジャンプに対する1.1倍のボーナスが最後の1本のみに制限されることや、ジャンプの基礎点が下がっていることなどから全体的に不利な傾向があるものの、出来栄えと演技構成点で満点を取った場合の加点も大きく、「得点の上限」は116.77点と従来の採点方式よりもわずかにのびます。

一方で、羽生選手のフリーの最高得点をマークした2017年世界選手権の演技は、ループ・サルコウ・トゥループの3種類の4回転ジャンプを組み込んだ構成で、得点の上限値は234.33点というものでした。こちらも羽生選手は出来栄えの評価や、演技構成点で満点に近い優れた実施を見せており、223.20点を記録しています。

フリーでは単純に1本ジャンプの回数が減ることもあって、大きな基礎点の減少は否めませんが、羽生選手の場合は世界最高記録を出した際も、実は「4回転ジャンプの繰り返しは1回のみ」という構成となっており、トリプルアクセルをもうひとつの繰り返しジャンプとしていました。この構成は世界一と評される羽生選手のトリプルアクセルがあればこそのものであり、そのため羽生選手に限っては4回転ジャンプの回数減による影響は極めて小さなものとなります。

フリープログラムでのジャンプが1本減り(※本稿では演技の最後に実施したトリプルルッツをカットして計算)、演技後半のボーナス回数も制限されるなかでも、羽生選手が同じ構成で得られる得点の上限は230.86点とほぼ同水準であり、従来の記録を超えることも十分に可能なものとなっています。新採点方式でも世界記録更新の可能性は十二分にある。世界一のトリプルアクセルを持つ羽生選手だからこそ羽生超えの可能性がある、そのように言えそうです。

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