テレビ番組『クレイジージャーニー』(TBS)に出演するや、“裸の美人写真家”として大反響! アフリカをはじめ世界の少数民族を撮り続ける写真家・ヨシダナギさん。
物静かな子だった幼少期、そして学校生活からのドロップアウトを決めた14歳……。
選択する力や可能性を信じる力はいかにして培われたのか。
『これが私の生きる道』第4回目はヨシダナギさんが登場。唯一無二の生き方を築き上げたバックボーンに迫ります。読めば対人関係も苦じゃなくなるかも♡
存在感がなかった……話すことも得意じゃない
自分の気持ちが伝わらなかった
――ナギさん小さい頃どんな子供だったんですか?
どちらかというと物静かな子でしたね。いるかいないかわからない、「何を考えているかわからない」と親にも言われていました。存在感がなかった。
――自分をあまり表に出さない?
私なりに出しているつもりなんですけど、親からしたら「わからない」と。
何か物をもらって喜んでいるのに、「もっと嬉しそうにしたら?」とか言われてしまう。伝わらないんだなって思っていました。
話すことも得意じゃなかった。会話で自分の気持ちを伝えるタイプではなかったです。ただ、小学校低学年のときの学童保育の先生にはわかってもらえたんです。
学童保育でみんなが勉強をしているとき、私はそれがつまらなくて頭の中にあることを文章にして先生に見せていたんですね。
そしたら先生がうちの母に「ナギはペンと紙さえ与えていればすごくしゃべる子だから、この子にはペンと紙を与えてください」と言ってくれて、それがすごく嬉しかった。
初めて「自分には味方がいるんだ」と思えたし、文章を書くことで自分の感情を伝えることができるようになった。そのことで私はちょっと救われたんですね。
――ナギさんは10歳でいじめにあい、14歳で学校を辞めた…という話も有名ですが、いじめのきっかけはなんだったんですか?
小4のときに東京から千葉へ引っ越したんですけど、転入生というだけで目立ってしまって……。ちょっと目立っているからってちやほやされていることに対して「何あれ」っていう感じのいじめでした。
そこから執着心の強い一部の子たちにずっと目をつけられて。私は、嫌がらせに対して激しくやり返すとか泣いたりとか何もしなかったんですけど、淡々としていたのが余計気に食わなかったんだと思います。
私が学校に行かなくなれば彼女たちの気も収まったかもしれないけど、うちの母が「あなたは何もしていないんだから(学校に)行きなさい。行かなくなったら負けよ」と。
――お母さんにそう言われてどうでした?
確かになと。嫌だけど私は悪くないし、私が行かなくなったら彼女たちが喜ぶだけだから、喜ばせちゃいけない。だから行くしかないなと。
中学に上がれば、他の小学校からも生徒が集まるので変わると思ったんですけど、その執着心の強い子たちに悪い噂を流されて、結局知らない子からも後ろ指さされてしまう結果に。
このまま学校にいても限られた選択肢しかない
だから14歳で学校辞めた
――学校を辞めたのは14歳。中2ですか?
中2の1学期いっぱいで。それまでも行ったり休んだりを繰り返していたんですけど、2学期からはほぼ行っていないです。
行かなくなったきっかけは夏休み中に両親が離婚してお母さんが出て行ったことですね。いつも「学校へ行け」と言っていた人、背中を押してくれていた人がいなくなった。
――その学校へ行かないという選択に対し、よかったのかなという迷いや、将来に対する不安、学校に行かない自分に不安はなかったですか?
人と戯れることが苦手で、みんなと一緒にいても楽しくなかったんですよ。ひとりもつまらないけど、学校の子たちといても何も楽しくない。
学校を辞めたことで、人と接するストレスからは解放されましたよね。学校を辞めるという選択に対しての迷いや不安はなかったです。
そもそも私は勉強ができないんですよ。中1のときの最初のテストで、自分のバカさを知ったんです。元々バカだろうなとは思っていたんですけど、『日本列島』すら知らないということを知って。
勉強にもついて行けない、集団生活も苦手。そういう意味では私、普通に学校へ通っていても限られた選択肢しかないと将来だと思ったんですよ。
私が平均ぐらい勉強ができる人間だったら多分不安があったと思いますが、平均以下、それも結構下のレベルだったので、学校を出たからといってみんなと同じ人生が待っているわけじゃないだろうと。
だから他のところで極める、もしくは自分で新しい道を見つけるほうが近道だと思ったんです。私は勉強はできないし、長けているものがすごく限られているけど、人と違うところが昔から何かあるから、そこさえ見つければ私はなんとかなるとは思っていました。
――客観的に自分のことをよく見ていますよね。
今も自分のことを他人事のように客観的に見ていますね。カメラマンとして私は別に写真が上手いわけではないですし、写真が上手いカメラマンはいくらでもいる。
だから私はアフリカに行かないとカメラマンとしては成立しない。そういうふうに考えて選択していると思います。
――客観視は自然と身についたんですか?
うちの母をはじめ、うちの家系がおじいちゃん以外全員辛口だったんですよ。顔のことにしろ結構ズバズバと言うから、親から突きつけられた現実を受け入れて過度な期待を自分にせず…というところで。
でも、学童保育の先生が「ナギはすごく華やかな目立つひまわりではないけれど、すごくキレイに咲く桔梗だから。この子には何かがある」とずっと言ってくれていて。
私には他の子にはない何かがある、華やかなものではなくても人を惹きつける何かがどこかにあるんだろうなと、ずっと信じて生きてきたんです。
その学童保育の先生は60歳くらいのおばあちゃんだったんですけど、本当に与えてもらったものは大きいですね。
学校にいても不安。一人でも不安。
一人もつまらない。けれど学校の子たちといても楽しくない。
だから文通相手が友達だった
――ちなみに集団生活が苦手っていうのはどのくらい苦手でした?
人と戯れることが苦手で。私のクラスは2グループに分かれていて、細かくグループに分かれていなくて、派手で目立つコのグループとそれ以外。話しかけられても話題も合わないし、「可愛いよね!」って同調することもできないし、全然可愛くないじゃんとは言えない。
ドラマの話もつまらない、つまらないのになんでニコニコしていなきゃいけないんだろうとか。そのときは仲良い子は同じクラスだったんですけど、来ないんですよ昼間(笑)。
誰かといないとダメ、一人でも不安だけど、学校にいても不安、仲良いフリして実は良く思ってないってケースを知ったりとかして、こんな上辺な関係必要なのかな。私はそういうの嫌だな、だったら人と戯れないほうがいいなって。
みんなと一緒にいて楽しくなかったんですよ。一人もつまらないけど学校の子たちといても何も楽しくない。
――学校以外の場で誰かしらと関わりを持ったり、学校以外に楽しい場があったりはしましたか?
思ったことをその場でしゃべるのは難しいけれど、文章を書くのは好きだったので文通をしていました。毎日小学生新聞かな?
そこで文通相手を募集をして。今いる友達の半数は文通で出会っているんですよ。
――文通ってお手紙を書いてやり取りするあの文通? オールドスタイルですね。
メールも気軽にできる時代にはなりかけていましたけど、それでも手紙のやり取りが好きだったんです。手紙にはその人が表れるんです。
たくさんの子から手紙をもらったんですけど、何が言いたいのかわからない子もいるし、ちゃんと文章が書ける子もいるし、私が書いたこと1個1個に対して返事をくれる子もいる。
そういう意味では人を選びやすいし、性格が合う合わないがわかるので。文通していた子たちとは結構長いつきあいですね。
――文通を通して仲良くなって遊んだり?
私は会わなくていいんです。会う必要はないんです。何かを話しかけて、誰かがそれに答えてくれる。しかもそこにある程度期間があったほうがいい。
すぐに距離を詰められるのもだめなので適度な距離もよかった。書いているときも楽しいし、返事を待っている間も楽しい。つかず離れずくらいの感覚で良い子と仲良くなれたら嬉しいなっていう。
言葉はわからなくても気が合う人とは仲良くなれる
――しゃべるのは得意じゃなかったとおっしゃっていましたが、人物撮影となるとその場で伝えなきゃいけないことも多いですよね?
私が撮影しているのは主にアフリカ人とか言語が全く違う人たちじゃないですか。私が、人間関係で苦手なのって社交辞令なんですね。日本人は特にだと思うんですが、私はなんでも社交辞令を真に受けてきちゃったんで社交辞令が大っ嫌いなんですよ。
「ごはん行こうね」って言ってたけど誘われないとか、「今度遊ぼう」って言葉を真に受けて誘ってみたら断られたとか。
アフリカの現地の人たちって、私たちが思っている以上に感情がシンプルなんですよ。社交辞令が基本ない。全部顔に出るんですよ。好いてくれる人は、ああこの人本当に私のことを好いてくれているなってわかるし、嘘を言っていたら、ああこの人は嘘を言っているなというのもわかるから、関わり方が自分でわかる。
「この人私のこと好きかな?」とか、「この子友達と思っているのかな?」と勘ぐらずありのまま、彼らが言っていることを鵜呑みにできるんです。
シンプルで簡単、彼らとのコミュニケーションは嫌じゃないし、その子たちと戯れているのも嫌じゃない。共通言語もゼロですしね。ガイドの方もいますけど撮影しているときは通訳じゃ間に合わないので身振り手振りと日本語です。
でも、ジェスチャーを交えて何回も繰り返していればなんとなくわかる。お互いが理解しようとすることで伝わることは多いし、言ってることがよくわからなくてもなんか気が合う人は絶対いるんですよ。
何を言っているのかわからないけど、おまえ面白いなって。なんか好きだっていうのがお互いあるんですよ。言葉はわからないけど楽しいねって子供のように戯れられる。
全員ではないですけど、その感覚でいられる人が日本よりも明らかに見つけやすいです。どういう振る舞い方をするかでしかお互いを見ていないので、すごくシンプルな人づきあいがありますね。
――シンプルな人づきあい。ちょっと憧れます。
私は友達の作り方はわからなかったですけど、5歳のときに初めてマサイ族の人たちをテレビで観たとき、この人たちと仲良くなるのは簡単だと思ったんですよ。
今もアフリカ人の顔を見ると、「この人いける人」「この人いけない人」ってわかるんですが、彼らはこうしたら悲しむっていうのも直感的にわかっていたんですよ。
絶対に彼らの前で日焼け止めのクリームを塗っちゃいけないとか、彼らの前ではこういう発言しちゃいけないとか、直感的にわかっていたことを現地では実践しています。
「お前は日焼け止めクリームを塗らないね。帽子もかぶらないね、長袖も着ないね。だからお前のこと信用してるよ」とミン族から言われたときに、ああ私の感覚は合っていたんだなって思いました。最終的に答え合わせのように彼らから答えをふられるんです。
5歳の私にとって部族の方は
みんなが憧れていたセーラームーンと同じ存在だった。
そして大人になった今では、フラットになれる相手だった。
――5歳のときはマサイ族の何に惹かれたんですか?
フォルムです。美しい。なんて格好良いんだろう、あの衣装、あの黒い肌、パーフェクトだなあって。セーラームーンを見て「可愛い、なりたい!」って思うじゃないですか。それと一緒の感覚です。
なので彼らと同じ格好をするのは、最終的に仲良くなれたというゴール地点でもあるし、憧れのヒーローのコスプレをしたいという感覚でもある。しかも本物を貸してもらえる。本物のコスプレをしたいし、彼らにもそれを見せつけたいんです(笑)。
――初対面で「この人仲良くなれそう」というあの感覚、すごくわかります。ナギさんの場合はアフリカ人限定ですか?
いや、そんなことないと思います。ただ、アフリカ人に関しては特に私の視点がフラットで気づきやすいのかもしれない。
でも、日本人でもそうですけど、基本的に最初はそんなに人に興味を持っていないのでフラットなんですよ。良くも悪くもなんにも思っていないというか。人を前にしたとき本当に“無”なんです。なんの感情もなく人前に出ているので。
――ゼロベースってことですか?
ゼロベースですね。良くも思わず、悪くも思わず、過度な期待もせず、なんとも思ってない状態。その上で話してみて何か面白いことが引っかかったらそれはラッキーくらいの感覚で人と会う。
コミュニケーションはそんなに得意なほうでではないけど、人としゃべること、話すことはあまり苦じゃなくなりましたね。
―― “無”っていいですね。
昔は、この人と合わないのになんで話さなきゃいけないんだろうっていう変な感情があったんですけど、今はそれがない。
期待もないし、逆に何かを知ってもらおうとも思ってない、何もないんですよ。ただニコニコしていればいいだけって思って人前に出るから苦ではない。“無”は悪いことじゃないんですよ。
――ナギさんにとってコミュニケーションとは。上手くなったのか、それとも元々持っている得意なやり方を見つけることができたのか?
コミュニケーションとかは全然上手くなくて、人としゃべること、話すことがあまり苦じゃなくなったくらいですね。本当に無なんですよ。
1986年生まれ、フォトグラファー。幼少期からアフリカ人へ強烈な憧れを抱き「 大きくなったら彼らのような姿になれる 」と信じて生きていたが自分は日本人だという現実を10歳で両親に突きつけられ、挫折。2009年より単身アフリカへ渡航、独学で写真を学び、
アフリカをはじめとする世界中の少数民族を撮影、発表。その唯一無二の色彩と生き方が評価され、TVや雑誌などメディアに多数出演。近著に1st作品集『SURI COLLECTION』(いろは出版)、アフリカ渡航中に遭遇した数々のエピソードをまとめた紀行本『ヨシダ、裸でアフリカをゆく』(扶桑社)、『ヨシダナギの拾われる力』(CCCメディアハウス)がある。2018年4月にはヨシダナギBEST作品集『HEROES』(ライツ社)も発売。
Twitter @nagi_yoshida
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